この茶椀と湯呑の生地は九谷焼の生産地である石川県能美市の和窯と呼ばれる窯元で作られています。国指定の伝統工芸士が一つ一つ丁寧にロクロを回して成型していくのですが、初めて現場に訪れた時、あまりに繊細な指先の動きに思わず息を堪えてしましました。快晴の空が広がる昼下がり、穏やかな時間の中でどこかピリっと緊張感のある窯で黙々とロクロを挽く。手づくりならではの味を残しながらも精密に作り上げていきます。その手から紡ぎだされる滑らかな湯呑の曲線は程よく手に掛かり、使い心地に対する探究心を垣間見ることができます。

その日の天候や窯の中の置く場所等によっても仕上がりが左右されるほど繊細な焼物。どんな熟練の職人でもその仕上がりを完全にコントロールすることは難しいと聞きます。この月見うさぎは特にその焼物ならではの特徴が顕著に出ます。一つとして同じ模様の生地は存在しないため、使う人だけの、世界に一つの湯呑と茶椀になります。そして何年経っても変わることのないこの焼きムラは、使うほどに愛着が湧いてくるのです。

可愛らしい絵付けを手掛けるのは、九谷焼の地で問屋を20年、絵付を20年という異色の道を歩んできた万作さん。多くの職人は最初に描きたい絵があり、それに合う器を探すといった方法が多いと言います。しかし、万作さんはまず生地をじっくりと眺め、素地の特徴を見て土の色や質感を見てから構図を決めています。落ち着いた生地に映える真っ白なうさぎと月をかたどった金箔の絶妙なコントラストが、日本ならではの風情を感じさせてくれる至高の作品に仕上がっています。金箔は、素手で触れると消えてしまうほど繊細にできており、月のような円形に切り抜くことは難しいため細かく切り分けた金箔をかけらを少しずつ組み合わせて、パッチワークの用にかたちを整えています。この緻密な作業によって広く愛される絵付けが仕上がっています。

土の風合いを活かした生地の色味は、炊きたて冷凍問わず真っ白なご飯を際立たせてくれます。そして特におすすめなのが、この茶椀でいただく茶漬けです。男性スタッフが試してみたところ、程よい大きさのこの茶椀は、皆さんも一度は経験したことがあると思いますがお米が多すぎて最後の方になると少し水分を含んで食感を損なってしまうといったことが無いということが分かりました。これ、一度分かってしまうと「お茶漬けを食べるならはこの茶椀だなぁ」って思ってしまいます。

九谷焼は絢爛豪華な絵付けのイメージで有名ですが、茶碗・湯呑は今までの九谷焼ではありえない一つの革新です。シンプルなデザインの中に込められた数多くのこだわりは実際に暮らしの中で使うほどににじみ出てきます。ぜひ、長い人生に寄り添う特別な贈り物としてご利用いただければと思います。